偶然にも近くに住んでいたことから、ある日思い切って声をかけ、取材を申し込み、「じゃ、近いうちに」と取材を受ける約束を取り付けてから待つこと2年。それから5年にわたる取材をへて、まとめられたのがこの本である。
ビートたけしは僕が気になる人のひとりで、彼について書かれた本は何冊も読んでいる。だが、この本はその対象とするテーマも話の内容の掘り下げも格段にちがう。あからさまな「たけし」の姿が浮かび上がっている。
自分の生い立ちから語る家族のこと、仕事、女、映画、メディアから政治や環境問題まで、その関心の領域の広さにあらためて驚くとともに、彼のあたまの良さにため息が出るほどだ。
そこまでたけしに語らせたミッシェル・テマンの取材者としての手腕はすばらしい。
たけしとフランスはきわめて相性がいい。実際、彼の映画や表現者としてのさまざまな作品を最も高く評価し、称賛しているのはフランスである。それに加えて、本書を読めば分かるが、たけしにはフランス人的な感性と意識の持ち方がある。根っこは浅草下町の日本人だが、感覚はフランス人である。
だから、日本人のジャーナリストでは聞き出すことができなかった多くことが、本書では語られている。話を聞き出したテマンには刺激的な連続だっただろうが、語るたけしにとっても幸せな時間だったはずだ。