ロンドン・ヒースロー空港からバスに乗りカーディフへ向かう。車はM4(国道4号線)を西に向かって走り、セバン川を渡ったところで地名はイングランドからウェールズに変わる。
するとまもなく Croesso i Gymru! と書いた看板が目に入った。Croesso i Gymru! は、Welcome to Wales!(ウェールズにようこそ!)の意味だ。
ここでは、道路標識や公共の掲示はウェールズ語と英語の併記が法律で決められている。下の写真にあるように、英語のtaxisをウェールズ語ではtacsisと表記する。こんな風に比較的新しい言葉は英語に似ているが、そうではない言葉は表記も発音もまったく別ものだ。
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駅の出口に掲げられている表示 |
ウェールズに着いた日、英国留学時代の友人が息子を連れてバス・ステーションまで迎えに来てくれた。
現地の子どもたちは学校でウェールズ語を必修の第二言語として学んでいるのだが、それをあまり好んではいないようだった。彼らにとってウェールズ語を習得する必要性は必ずしもなく、政治的な背景をもとに無理矢理学ばされているのがその理由のようだ。
ウェールズは16世紀の半ばにイングランドに併合され、その後ウェールズ語は劣った言語とみなされて教会以外での使用を禁止されてきた歴史がある。その結果、ウェールズ語を話すことができる人の数は減り続けてきた。それへの歯止めをかけるためにウェールズ政府が学校での必修化を決めたのである。
言葉は、人が生きてきた歴史と文化そのものだ。力によってそれを奪われようとしたことへの抵抗の気持ちがあるのは当然のこと。しかし、英語が当たり前となった状況で、ウェールズ語を子どもたちが嫌がるものまた自然なこと。
いったん自分たちの「スタンダード」を奪われると、人々は後々まで長きにわたって苦労する。もちろんこれはウェールズに限った話ではない。