2013年3月3日

米国ヤフーが在宅勤務を見直したわけ

米国のヤフーで、在宅勤務を見直し、6月からすべての社員に出勤を求めるという社内メモが人事部門責任者から全社員へ送られた。昨年CEOになったマリッサ・メイヤーのイニシアティブである。


チームで創造性を生むというやり方は彼女が昨年まで働いていたグーグル内で実践されている方法論だ。

「ヤフーをもう一度イノベーター集団にする」のが彼女の目的である。

ニューヨークタイムズなどの記事によると、在宅勤務によって生産性は上がったと報告されている。しかし、業務レベルの仕事の効率化が実現している一方で、仕事の質が低下したり、クリエイティブなアイデアが出にくくなっているのだろう。

社員全員が出勤していれば、自然とカフェテリアや廊下、階段の踊り場などで仲間たちと話をするようになる。そうしたところから思いも寄らなかったアイデアが出たり、コラボレーションの雰囲気が出てくることが期待できる。

もっとも、ただ在宅勤務を廃止するだけで期待通りに物事が進むわけではなく、社員たちが自由にアイデアを交わし合ったり、自然発生的にチームを作って課題にチャレンジしたりしていくような空間と時間とコミュニケーションとプロセスをどのように組織内にデザインしていくかが重要なポイントだ。

これは、在宅勤務が普通になった企業での見直し例であるが、翻って日本はどうだろう。自宅勤務で構わない仕事をさせるために、いまだ長時間の朝夕の通勤を社員に強いているところが多数だろう。

米国ヤフーの組織がどうなっているか知らないが、非製造業では今後は仕事の内容に合わせて次の3つの勤務形態に分かれてくるように思う。

研究・開発などをやっている人たちはオフィスなどの決まった場で集合的に仕事をする。営業職などは基本的に自宅から客先をまわるスタイルで、週に何日か勤務先に出勤する。 カスタマーサービスなどは自宅の作業が中心になる。

最初のタイプに優秀な人材がより多く就いている企業が、継続的にアイデアを生み、それを形にすることで競争優位を得ることができる。日本では(特に都会では)社員の通勤にともなうストレスや時間コストなどのマイナス面をどう軽減してやるかという厄介な問題の解決が鍵になる。

ところで今日の午前中、同じ建物に住むY澤さんに彼の研究留学先であるColumbia University Medical Center を案内してもらった。戦前からのビルが多く、改修に次ぐ改修で入り組んだ建物になっている。この巨大なセンターではリサーチ、教育、臨床が行われているが、重点は臨床よりリサーチに置かれている。

基礎研究を行っている棟を案内してもらいながら、興味深い話を聞いた。日本の大学病院との違いについて話をしていたのだけど、彼が言うには個々人の能力では日本の医師(リサーチャー)も遜色ないが、プロジェクトベースの研究チームで成果を出して行くのは米国人が圧倒的に勝っているとか。

おもな理由は2つ考えられる。まず、プロジェクト・マネジメントのノウハウとシステムが構築されていること。とりわけ日本に比べ、多分野の研究者が相互に協力し合いながら新たな発見に向かっていく気風がある。そして、メンバーのモーチベーションが高いこと(成果を出せないとプロジェクトが資金的に続かず、雇われている研究者は職を失う)。

日本の大学は、医学部だけではなくどこも縦割りのサイロであり、閉鎖的なムラの集合体である。だから他分野との交流などめったにない。他分野との境界や接合部分にこそ、面白い研究テーマがあるのだけど。