2024年11月27日

気球で成層圏に行ける

風船から大型気球へ。そしてゴンドラから気密性キャビンへ。だけどやっている基本は同じ。

7年前にラジオ番組でインタビューした岩谷圭介さんが、テレビ番組に取り上げられていた。


ぼくはその後の彼の動向をまったく知らなかったのだけど、彼はその仕事を着実に発展させ、いまはベンチャー企業の経営者としてやっぱり宇宙を目指していることを知って嬉しくなった。

2017年に話をうかがったとき、彼は風船にカメラを載せて1万メートルの高度から宇宙の写真を撮っていると言っていたのが、いまはキャビンに人が乗り込み、2万メートルの高さまで飛ぶ。

静的浮力を持つヘリウムを使って空に向かう気球は、基本的には無音のはず。世界には宇宙観光の実現を目指すロケット・ベンチャーがいくつもあるが、無音の気球を使って宇宙へ上がっていく岩谷さんのプロジェクトが宇宙の神秘性をもっとも高めてくれるのは間違いない。楽しみである。

「木村達也 ビジネスの森」ゲスト 岩谷圭介さん<前編> 

2024年11月26日

斎藤的なるもの

斎藤元彦氏が兵庫県知事に再選したとき、兵庫県庁の職員は県民からずいぶん嫌われているんだろうということは容易に察しがついた。

県職員への不信や反感が、斎藤支援に向かった。つまり斎藤への投票のベースにあったのは、敵(県庁職員)の敵(斎藤)は味方、というシンプルな感覚であり、兵庫県の有権者にとって政策論争がどうだなんて、ほとんど関心がなかったと推測せざるを得ない。そして、それが彼らの民意だった。

と思ってたら、PR会社の女社長が出てきた。突然の登場だ。これで世間がまた騒ぎ始めた。斎藤は「彼女はボランティアだった」なんて白々しいこと言っているようだが、辻褄が合っていない。

斎藤の主張は「公職選挙法違反となるような事実はないと認識している」だ。知事選の前に県職員に対して行った所業の是非を問われた際に彼が使った論法とおなじだ。

PR会社の女社長Oはサイトの内容を削除したり加工して問題がなかったようにつくろいながら、姿はまったく見せない。コミュニケーションに関わる仕事をしているにもかかわらずだ。

いまは斎藤陣営から様々な懐柔策を持ち込まれているのだろう。SNSへの書き込み内容を嘘だったと証言する代わりに、「ほとぼりが冷めたら県からの仕事をしっかり用意するからさ」とか。で、O社長は、その路線にのった発言を持って姿を見せるような気がする。あとは、警察と検察がそれにどう対応するかだ。

いつまで続くのか、斎藤劇場。公僕の親玉としてちゃんと仕事しなきゃだめなんじゃないのかね。


それにしても、このところあちこちでこうした「斎藤的なるもの」が跋扈しているのが気になる。

2024年11月25日

Customer Harassment は、本来は「顧客への嫌がらせ」

誰が言い始めたのか、顧客による店頭での迷惑行為(言動)が「カスハラ」と呼ばれるようになった。カスタマーハラスメントを縮めた新語である。

その後、「カスハラ」が市民権を徐々に持ち始めると、企業は店頭での客から店員への暴言や嫌がらせだけでなく、店あるいは企業が迷惑だと考える客による行為を「カスハラ」と呼ぶようになった。例えば、コンビニの店頭に若者たちが集団でたむろしている状態やゴミの投げ捨てなどである。

そうした行為を「カスハラ」と呼ぶことで注意を喚起して止めさせようという考えである。迷惑だと思うのであれば、自らが相手に対峙して注意をすればいい。それができないから、「カスハラ」の社会的話題に乗じて圧力をかけて自分らにとっての問題を解決しようとしている。

今年の10月、英国のFinancial Times は東京都がハラスメント防止の条例を発布したのを記事にしているが、そこでは下記のように、顧客からの迷惑行為は customer nastiness、日本のカスタマーハラスメントは "kasu-hara" と表記されている。 

Officials in the Japanese capital are drawing up guidelines to accompany the new ordinance, which was passed by the metropolitan assembly last week to tackle customer nastiness known by the abbreviation "kasu-hara".

日本で用いられているような意味で「カスタマーハラスメント」が用いられている例は、海外では極めてまれ。つまり、これもまたガラパゴス現象のひとつと言える。

同様に、学術論文に customer harassment という言葉が登場するのも、ごくわずか。そのなかのひとつ、P. Kotlerと並ぶマーケティング界の泰斗であるJ. N. Sheth が、2001年の彼の論文のなかでcustomer harassment という言葉を用いていた。

それは、その頃台頭していたEメールをツールとしたマーケティング手法に関しての内容で、企業から顧客に向けて発信される大量のセールス・メールをcustomer harassment、つまり顧客にとっての迷惑行為と表現したものだ。

「カスハラ」はコスパやタイパと同様、日本ならではの用語法なのである。

2024年11月24日

谷川俊太郎のすがすかしさ

谷川俊太郎さんは、1982年に芸術選奨文部大臣賞に選ばれたが、辞退した。彼は民間からの賞はたくさん受けているけど、国家からの褒章は何も受けていない。

日本芸術院会員にも推されたけど、それも辞退した。そんなことを誰にも話さず、相談もせず、まるで通りがかったスーパーの試食コーナーでソーセージか何か勧められ「ぼくはいいよ」と断るように。たぶんね。

谷川さんのすがすがしさは、そうした決して国家に依らない、自由ですっと立っている姿にあった。

国や都や県や、そうした「お上」から褒章めいたものを目の前にぶら下げられると、それだけで嬉嬉として尻尾をふる人が多いけど。

2024年11月22日

アルバイト、これも立派な経験だ

最近よく耳にする言葉に「闇バイト」がある。不法アルバイトといった意味か。

行われているのは、数万円から数十万円を奪うがために民家に押し入り、人を傷つけたり、時に殺したりしているネット上で告知されている「アルバイト」である。

なんてバカな行為、なんて愚かな奴ら。金額の問題じゃない。奪う金額が10億円だったら理にかなっているというようなことではない。奥にいる薄汚い悪い奴らに乗せられ、ただの兵隊としてやってはいけないことを命がけでやらされている、間違いなくどうしようもないアホな連中。

犯行後に捕まったある若者は、「税金の滞納額が数十万円になっていると言われた」ことから、割のいいバイトを探したところ、X(旧ツイッター)で一晩15万円というアルバイトを見つけて応募したと言う。

このマヌケが。何の才能もない若者が一晩で15万円稼げるアルバイトなんてのは、体と精神をボロボロにされる身を売る仕事か、犯罪の手下しかないだろう。他に何がある?

そうしたことは、普通のアルバイトをやった経験があればサルでもわかるはず。自分の「相場」を否が応でも知らされるから。それを知っておくことは、人としてとても大切なことなんだよ。

深沢七郎が、以前、こんなことを書いていたね。

質屋へ行ったことがないなんて人は、ダメ。アルバイトをやらないなんて人は、ダメ。1日働いて、いくらってこと知ったら、三島由紀夫、ハラ切らないよ。

昔に書かれたものだから、質屋なんてのが出てきている。ボンボン生まれで金の苦労を知らなかった三島を揶揄した言い方になっているが、当を得ている。

Tシャツにジャケットは似合わない

先日なくなった谷川俊太郎さんは、いつもTシャツ姿だった。自宅でくつろぐ姿はもちろん、講演会などでも同様。Tシャツ以外ではスタンドカラーのシャツ、あるいはハイネック。ぼくは、彼がワイシャツのような普通の襟の付いたシャツを着ているのは見たことがない。


どういった考えがあったのかは知らない。聞いたことも、読んだことがないから。ただ、谷川さんにはTシャツがよく似合っていた。彼のその存在のあり方そのものだった。

ところでTシャツと云えばいつからだろうか、ジャケットの下に直接Tシャツを着る人たちが現れた。圧倒的に若い男性が多いように思う。あるいは、若さを気取っているそれほど若くない男たちも。

とりわけ、起業家を自称する男たちやネット系ビジネスの経営者たちは、まるで決まったようにジャケットの下はTシャツのインナーである。しかも足下を見るとストレートチップの革靴だったりして。スタイルというものがまるでないみっともなさである。

Tシャツの持つカジュアルさを若さを示す記号として使い、その一方でジャケットを着てビジネスマンとしての「きちんとさ」も年配者相手に示さなきゃという、どうにも中途半端な折衷思考だ。

何を着ようが人の勝手なんだけどね。ただ、ぼくには彼らの首すじあたりが汗臭く、昔から不潔に見えてしかたない。

スティーブ・ジョブズは黒のTシャツかタートルネック(スタンドカラー)が決まりだったが、決してその上にジャケットを羽織るなんてダサい着方はしなかった。

2024年11月21日

不適切にもほどがある

ドラマのタイトルではないが、不適切というか不適格というか、ここまでやるかとその振り切った姿勢に驚いた。ドナルド・トランプ次期米大統領の次期政権人事案である。

個々の人物について私自身は詳細に知るところではないが、報道されている内容(起こした事件)などだけでも明らかにどうかと思う。


アメリカはどうなっちゃうのか。この調子でいくとかの国で現れるのは、第一次大戦後のドイツで拡がったアナーキズムに違いない。それは、確実な秩序崩壊である。

2024年11月20日

谷川俊太郎さんが亡くなった


先週、谷川俊太郎さんが亡くなった。92歳。ひとは生まれ、ひとは死ぬ。いつかはと思っていたが、いつかはと思っていたが。5年ほど前、横浜で彼が話をするのを聞いたのが最後になった。

 
谷川俊太郎&武満徹「死んだ男の残したものは」

2024年11月14日

嘘つきは、警察チョー幹部の始まり

毎日新聞によるスクープ。11月13日朝刊 

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大川原化工機事件 警察庁幹部「やるな」 消えた警視庁の検証アンケート

 化学機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)の社長らの起訴が取り消された冤罪(えんざい)事件で、警視庁公安部外事1課が起訴取り消し後の2021年8月、捜査の問題点を検証するアンケートを捜査員に実施していたことが判明した。だが、アンケートの存在を知った警察庁幹部に外事1課長(当時、以下同じ)が叱責され、課長は「回答は廃棄した」とこの幹部に報告したという。捜査員にも回答は共有されず、アンケートが生かされることはなかった。
 大川原化工機の社長ら3人は20年3月、軍事転用可能な装置を不正輸出したとして、外為法違反容疑で逮捕、起訴された。しかし、東京地検は初公判4日前の21年7月30日、起訴内容に疑義が生じたとして起訴を取り消した。
 複数の捜査関係者によると、起訴取り消しを受けて、21年1月に着任した外事1課長が検証作業に着手した。当初は会議形式で意見を出し合おうとしたが、捜査を問題視していた一部の捜査員が「記録に残らないのはよくない」と反発。文書として残るアンケートで行うことになった。
 アンケートは起訴取り消しの翌月、事件を手掛けた公安部外事1課5係の捜査員(他部署に異動した人も含む)を対象に行われた。毎日新聞は関係者からこのアンケートを入手した。質問部分はA4判2ページ。冒頭で「未来志向型の検証」とうたい、「今回検証した結果が将来の我々の捜査に寄与できるよう、“今後の捜査のあり方はどうあるべきか”について、思いの丈を述べていただきたい」と記されている。
 質問は5項目あり、立件に不利な「消極証拠」が存在したのか▽(輸出規制を担当する)経済産業省や地検との関係はどうだったのか--などについて尋ねるものだった。こうした質問は、捜査を指揮した5係長の後任が作成したという。
 無記名式で回答を求めたところ複数の捜査員が「(警察官の懲罰を担当する)監察で調査すべきだ」と記した。大川原化工機の製品が輸出規制品に該当するとした公安部の法解釈に経産省が否定的だったことや、輸出規制品との判断根拠になった公安部の温度実験に不備があったことなど、捜査の問題点を詳細に記した捜査員もいたという。
 ところが関係者によると、このアンケートの存在を知った警察庁外事情報部長(当時、以下同じ)が「何をやってるんだ」「そんなことはやるな」と外事1課長を叱責したという。結果が外部に出る可能性を懸念したとみられる。
 外事情報部長は外事1課長の直属の上司ではないが、全国の外事事件を監督する立場にある。さらにこの部長は、社長らが逮捕された際は警視庁公安部長を務めていた。外事1課長はこの叱責後、回答を廃棄したと部長に伝えた。現在、外事1課にアンケートは残されていないという。
 その後に警察を退職した外事情報部長は取材に対し、アンケートや叱責について「時間がたっており、私の記憶には残っていない」と述べた。
 警視庁は取材に、大川原化工機側が起こした国家賠償請求訴訟が続いているとして「お答えを差し控える」とした。
(11月13日東京版朝刊1面)

・・・だとさ。

公安部外事1課は自分たちの捜査の問題点がどこにあったのか検証するため、アンケートを捜査員に対して行った。自らの問題点を反省するためにそれが必要だと考えたわけだ。

それに対し、大川原化工機の社長らを逮捕した際に警視庁公安部長を務めていた外事情報部長がイチャモンをつけ、アンケートを廃棄させた。それによって、せっかくの貴重な反省と学習の機会が握りつぶされた。

警察庁外事情報部長はその後、警察大学校の校長になった(その後まもなく退職)。

わずか3年前の事件にもかかわらず、その元警察庁幹部は自分の行為を「記憶には残っていない」って。なんという鉄面皮ぶり。20万人を越える全国の現場警察官たちが苦笑いしている。 

この冤罪事件では、無罪だった大川原化工機の人がひとり、勾留中に必要な治療を受けられず亡くなっている。それでも反省を拒む警察官僚というのは何なのだ。

2024年11月1日

カミソリの切れ味

東京電力の社長・会長をつとめた勝俣恒久氏が84歳で亡くなった。社内で「カミソリ」や「天皇」と呼ばれていた人物だ。

カミソリと人が例えられるとき、そこにはいくつかの含意がある。頭がものすごく切れる、経営者として容赦なく人を切る(クビにする)、ものごとの判断基準が極めて合理的(情をはさまない)などだ。

さてこの経営者はどの意味で「カミソリ」と言われていたのか。

彼はフクシマ第1原発の事故の責任を問われた2018年の公判において、「知りません」「記憶にありません」「技術的なことは分かりません」と繰り返した。確かに冷たく、人を寄せ付けない鋭利さがあった。

そのように裁判では「技術的なことは分からない」と言い逃れを続けたが、原発事故が起こる7年前、東電の地域住民モニターだった町議の女性から「原発の非常用発電機を地上に移して欲しい。大津波に襲われるから」と訴えられたとき、「コストがかかりすぎるから無理。あなたは専門家でないし、考えすぎだ」と一蹴した。

まるで自分は技術が分かっている専門家であるかのような、上から人を見下した態度である。

非常用発電機を地上に移すことをしなかったため、2011年3月、発電機が水没して電源喪失→注水・除熱機能の喪失→格納容器の損傷→水素爆発→メルトダウンが発生した。そして、電源の喪失は、照明、通信、監視・計測のための手段も完全に奪った。

フクシマの原発事故が<天災>ではなく、東京電力の経営者による<人災>とされる所以である。

勝俣は従業員3万8000人を擁する東電グループの頂点にあり、まさに「天皇」として長きにわたって君臨してきた。東電のような役所根性が根深い企業では、彼のような人物に対して社葬を行って社会的に弔うのが通例だが、新聞発表によると「葬儀は家族で行った」「お別れの会は予定していない」。

世の中には「カミソリ」と称されて内心喜びを感じるタイプの人間と、その真逆の反応を示すタイプがある。写真で見る限りこの男は、明らかに前者だ。

鋭利すぎて、人としての感情も関係性も最後はすべて切り刻んでしまったようだ。