2017年7月15日

即日売り切れ

週刊文春の表紙は、長年にわたってイラストレーターの和田誠さんが描いている。独特の暖かなタッチ。和田さんの絵は、それとすぐ分かる。

際どいスクープを連発している週刊文春が、一方で常識と普遍性のようなものを読者に感じさせているとしたら、その半分くらいは和田誠の描く表紙が影響しているように思う。

その和田さんの描く表紙が、2000回を迎えた。40年間である。それが、毎週毎週だ。すごいとしか言いようがない。しかも、その表紙の絵を見る限り、和田さんは毎週頭をひねりつつ楽しみながら書いている(に違いないように僕には思える)。

2000回を記念してメモリアルクロックなるものを週刊文春と和田さんが売り出したのだが、申込をしたところ即日「完売」ということだった。

台数限定販売なのは分かっていたが、即日完売とは。全国に大勢の和田誠ファンがいることを忘れていた。しまった。

2017年7月7日

バルミューダ創業者の本

著者の寺尾玄は1973年生まれ。独特の設計で知られる扇風機を生み出したバルミューダ社の創業者だ。 


彼が設計して売り出したグリーンファンという名の扇風機は、値段が3万円以上するにもかかわらず人気商品で売れている。

最小消費電力3Wという一般的な扇風機の約10分の1の消費電力。最弱運転時の動作音はわずか13dB(デシベル)、人間の耳ではほとんど認識できないような圧倒的な静音性能を持つだけでなく、送られてくる風が従来の扇風機とまるで違うらしい。木陰で涼んでいるときに吹いてくるような自然の風らしい。

寺尾は、両親の離婚や母親の死、そして高校の進路進藤のやり方に強烈な違和感を感じて学校を退学、あとはお決まりように海外放浪へ。帰国後はロックミュージシャンを目指して活動を開始。バンドを組み、やがて何とかレーベルデビューを図るという矢先に契約を破棄されるという経験をする。

生きていかなければならない。そうした差し迫った時に、たまたま奥さんが持っていた雑誌でものづくりのデザインの面白さに気がつく。
試行錯誤の末、売れるモノ、つまり必要とされる物をつくらなければと考えた彼の頭に去来したものが扇風機。「なぜ扇風機の風は人工的で気持ちが良くないんだろう」という昔から感じていたという問題意識である。そこから彼の新たな闘いが始まった。

「掃除機はどれもなぜ使っているうちに吸引力がすぐに落ちてしまうのか」という不満を持ったジェームス・ダイソンが、自らそれを解決するためにそれまで誰も不思議に思ってこなかった掃除機という超成熟製品に目を付けてそこにイノベーションを起こそうとしたのと似ている。

ものづくりはおろか、それまで会社員をしたこともなかった寺尾が、そのために身につけなければならないと思ったことを取得していくすべは、そうした技術や経験をもつ人から学ぶしかない。早速町工場をいくつも訪ね、材料のことや加工のことを体で学んでいく。切羽詰まった人間の捨て身と言えるが、これくらいやらなければ考えを形にできないことをよく知っての極めて合理的な行動である。

会社が倒れるかどうかという資金と時間のなかでの闘いは(本人には申し訳ないが)スリリングだ。

自分がやりたいことを自分の手でつかもうとする姿勢と行動には頭が下がった。今の彼はミュージシャンではないが、彼のやり方は実にロックである。