2011年9月21日

聞くな、見ろ

仕事柄、自分で調査をするし、大学院生にも論文作成の一環で調査活動を指導することも多い。何を明らかにするか、どうやって明らかにするか、どのようなデータを集めるか、サンプルをどう選ぶかなどなど、実際に自分で一連のことをやってみないと調査がどういうものかは分からない。

集めたデータを分析することだけでなく、小規模ながらも自分で調査プロジェクトを進めることが大きな学習につながる。インタビューなど定性でやるか、アンケートベースの定量でやるか。学生には、まずはその辺りからオープンに考えるよう勧めるようにしている。

ただ自分自身は、最近はあまり調査データを信用していない。特に、調査設計が分からないものは、意識的に信用しないようにしている。調査のやり方や分析の仕方をちょっと変えるだけで、簡単にバイアスをかけることができ、またそれをもっともらしく見せることができるから。世の中にそうした調査がいかに多いことか。

もともと人に、例えば「あなたはなぜこの商品を購入したのですか」などと聞いたところで、本当のことは出てこない。こちらのために、相手は「それらしく考えて」答えてくれるだけだ。言葉は信用できない、と思った方が良い。その代わりにリサーチャーがやらなければならないのが、観察である。対象者の行動を観察し、その意味を分析する。まるでシャーロック・ホームズが事件の謎解きをするかのように。

ノンフィクション作家の梯久美子さんが、新聞の文化欄に「インタビューの極意」という文章を書いていた。よいインタビューをするためのノウハウなどないそうだ。(当たり前だが)。ただ、彼女には、インタビューに向かう際に思い描く理想的なインタビューの光景がある。10年ほど前に新宿のビルの地下にある小さなロシア料理屋で1人で昼食をとっていたときに見た、近くのテーブルにいた若い2人の関係である。

賑やかなランチタイムのレストランで、そこだけ周囲と違った空気が流れていた。彼女はそう感じた。なぜ自分がそう感じたのか、彼女はしばらく観察を続けて、その意味が分かった。相手をじっと見つめるのではなく、幅のあるゆったりした視線で相手を見ている女性。そこには2人だけを包む繭のようなものが見えた気がしたそうだ。

以来、インタビューにのぞむ時、そうした繭を思い浮かべるようにしていると言う。

2011年9月20日

反証の仕方

三菱重工業のサーバーが外部から侵入された。同社の潜水艦やミサイル、原子力プラントを製造している工場などのサーバーとパソコンが狙われ、報道では「サイバー攻撃」という言葉が使われている。

侵入によって情報を抜き取られた痕跡が確認されているらしい。機密性の高い国家レベルの情報が盗み取られている可能性もある。

侵入によって見つかったウイルスは8〜10種類で、それらを分析したところ、そこには中国語簡体字が含まれていた。

それに対して中国外交部の報道官は記者会見で、「中国政府は一貫してハッカー攻撃に反対している。中国も国外からのハッカー攻撃を受けている主要な被害国であり、中国がハッカー攻撃を仕掛ける拠点との見解は根拠がない」などと述べ、中国の関与を否定したと報じられている。実に素早い反応。

しかし、こうしたことへの正しい反証は、実は大変難しいのだ。仮に中国の関与が「ある」ことの証明ならば、一例を示せばすむ。しかし、中国の関与が「ない」ことを証明するのは、あの広大な国土で13億人の国民すべてを管理し完全にモニターしていないとできない話だからだ。

それとも、中国は自分たちはつねに13億人の国民を常時モニターしているんだぞと言いたいのかネ。

そもそも「中国政府は一貫してハッカー攻撃に反対している」とか、「中国も国外からのハッカー攻撃を受けている主要な被害国」ということと、今回、中国関係機関がサイバー攻撃を行ったのではないという主張は論理的一貫性がない話。きわめて単純な理屈だが、それが分かっていない。

2011年9月19日

「IT革命は人類にとっては後退だと思う」

今年の夏季ダボスの別名(正式カンファレンス名)は、Annual Meeting of the New Championships 2011という。新興の伸び盛りの企業の経営者が集まって、これからの更なる成長を築いていこうということだ。ただ、なかには胡散臭い連中がその気になって集まっている妙な匂いもなかったわけではない。

彼らが目を向ける成長のチャンスは、新興市場とインターネット(ソーシャル・メディア)のふたつ。

帰国後読んだ本の中で、建築家の安藤忠雄さんが「私はインターネットはやらないし、Eメールもしない」と語っているのを目にしてふと手を止めた。10年前の本ではない。昨年の11月に発行された本だ。

また彼はこうも述べる。「情報機器の発達で、急速な勢いでコンピュータ社会になっていますが、人間が歩むべき方向ではない。違うところに向かっているように思えてなりません。つまり、IT革命は人類にとっては後退だと思う」と。

確かに、IT革命は人類にとって後退をもたらすものかもしれない。そして、特定の目ざとい連中にとって莫大な利益をもたらすものである。

2011年9月18日

英語人格

昨日、大連で開催された夏季ダボス会議から帰ってきた。

3日間の会議開催中には多くの人と知り合ったが、日本人で英語をしゃべると人格が変わったように見える人が結構いる。日本人同士、日本語で話していると普通なのだが、彼が外国人相手に英語で喋り始めると、これが同一人物かと思われるほどアグレッシブになり、いきなり身振り手振り混じりになり、また顔の表情も10倍くらい派手になる。

なぜかほとんどが男性だ。何故だろう。

2011年9月16日

別ルールの国

フェイスブックからメールが来た。最近アクセスしてないよとの内容である。で、そこにあったボタンを押したが、つながらない。そうだった、中国はフェイスブックが繋がらない国なのだ。



2011年9月15日

Industry visit in Dalian

今日は朝から企業見学に参加。僕が参加したのは、3つのコースの中のひとつでハイテク・エリアを訪ねるというもの。30名ほどの参加者が、バスで予定地を移動する。車中、大連外国語大学の女子学生たちがボランティアとして熱心に世話をしてくれる。

少し残念だったのは、訪問地はどこもお仕着せの見学コースのみ。説明も型どおりといった感じだ。当たり前だが、とにかくよくコントロールされている。見せたいものと見せたくないもの、聞かせたいことと聞かせたくないこと、それらが独自の基準ではっきり線引きされているのだろう。

かつての日本のつくば学園都市に似た都市開発が、つくばの時とはまったく異なる時間軸の中で推し進められている。そのスピードと勢い、また計画自体の思い切りのよさには目を見張る。

2011年9月14日

温家宝首相のスピーチ

夏季ダボスは温家宝中国首相のスピーチで開幕した。伸びゆく中国の現状を、さまざまな観点から具体的なデータを数々あげながら紹介していた。ただし中国の場合、そうしたデータの信憑性がいつも問題である。

2011年9月13日

夏季ダボス参加のため大連へ

夏季ダボス会議(世界経済フォーラム)のため大連に来た。なかなかの都会である。

街もきれい(会議が開催されるため、前の週に街をあげて清掃したという話を現地の日本人から聞いた)。街のあちこちで高層ビルが建設中である。天候のせいかもしれないが、空気はかすみ、少し淀んでいる。青空はない。

さっそく街を歩き回る。ホテルのコンシアージュに中山広場までどう行くのか尋ねると、歩くには遠すぎるからタクシーを使えと本気で勧める。だが、歩く。

 大連駅の近くを歩いていたら、真っ黒のバスが。S.W.A.T、特警とある。

2011年9月4日

「最悪の事態は避けられた」

昨日の新聞で、ノンフィクション作家の吉永みち子さんが民主党代表選の結果について「海江田氏が選ばれたら、日本人をやめたいと思ったほどだったので、最悪の事態は避けられた」と書いていた。同感である。一国の首相が、議会の中で感極まって泪を見せたりする人物では困る。また、ただ首相指名を受けたいがため、時代遅れの政治勢力と平気で手を結ぶというのも、この国のあるべき姿を考えていない証拠だ。