2019年1月29日

カツ丼、カレー南蛮の三朝庵が閉店していた

早稲田大学の本キャンパスと文学部の間、馬場下町交差点の角にある蕎麦屋、三朝庵が閉店していた。

実は、この店の前、というか正確にはこの店がある交差点は週に何度も通っていた。が、気づかなかった。もともと営業時間が限られていたこともあり、店が閉まっていても、今の時間は「休憩時間」なんだろうと勝手に想像していた。ところが、実は昨年の7月31日に閉店していたとは。

112年の歴史を持ち、カツ丼やカレー南蛮の発祥の店として知られていた。確かに僕自身、ほんのたまにしか入らなかったが、いつも店はがらがらに空いていたのが今となっては思い起こされる。



降ろされたシャッターに貼られた紙には、スタッフの高齢化や人手不足が理由とあるけど、それが理由なら学生バイトでも使って続けられたはず。個人的な感想をいえば、数年前から店が死んでいた。

早稲田大学創設者の大隈家の御用達だとか、明治39年創業とか、カレー南蛮を初めてメニューに入れた店とか、きら星のような「歴史」に彩られてはいるが、そうした物語(ストーリー)に頼り切り、肝心の料理や店の掃除にはすっかり気が回っていなかったように思う。

最高の立地と最高の物語を持ち、しかも最高の利益率を誇る蕎麦屋という事業形態を生かせなかったのは、経営の不在としかいいようが無い。残念である。

2019年1月21日

そろそろポイントカードからおさらばした方がよさそうだ

日本国内で会員数6700万人を誇るポイントカードのTカードから、利用者の情報が警察(捜査当局)に流れていた。

6700万人とは圧倒的な数。日本全国民の半分以上にのぼる。 ただしこの数字はのべ数で、実際には使われていないものも多いだろうから、実数は2000万人くらいだろう。ただ、それだってすごい数といえる。

今回明らかになったのは、利用者の名前や住所、電話番号だけでなく、商品購入履歴も警察に流れていたということ。映画のDVDなどをレンタルしている場合は、そのレンタル記録(レンタル日、店舗名、レンタルした商品名)まで提供されていた。これは、その人の趣味や嗜好性が丸裸にされることを意味する。

報道によれば、「Tポイントの会員規約」には当局への情報提供は明記されていなかった、としている。しかしいずれにせよ、ポイントカードの会員規約など一般の人はほとんど読まない。

つまり、今回は規約になかったのに・・・ということで問題視されることになったが、規約にそうしたことが記されていたとしたら、運営会社のCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)は利用者に対して何を憚ることなく、会員情報を提供していたのだろう。

何も知らない、気づかないのはポイントカード利用者本人だけということになる。

世の中にポイントカードがあふれている。良くて1%、あるいは 0.5% 相当のポイントを貯めるために個人情報を売り渡し、財布をカードで膨らませ続けるのは、いい加減やめにした方が良さそうだ。

企業はこうしたデータが消費者行動理解につなげられると想定してるのだろうが、この程度のものでどんなインサイトが得られるというのか大いに疑問だ。

2019年1月14日

「恐怖の報酬」

こう寒いとプールに行く気がしなくて(会員になっているスポーツクラブにとっては一番いい客かもしれない)、つい楽に過ごせるものに走ってしまう。そうした中でもっとも安易なのが映画だ。

「恐怖の報酬」はウィリアム・フリードキンが1977年に監督した作品。1953年に製作された作品のリメイクである。現在、都内では1館だけ(新宿シネマート)で上映されている。


当時公開されたのは、30分ほど配給会社の手によってカットされた<短縮版>だったそうで、今回、<オリジナル完全版>を謳う作品が日本を含むいくつかの国でリバイバル上映されている。

ストーリーはシンプルと言えば、シンプル。見どころは戦慄的な状況のなかで生き抜く4人の非情な男たちの生と死といったところなのだろうが、僕にとっては美術デザインと音楽である。

この映画を世界に知らしめた最も印象的なシーンは、ニトログリセリンを運ぶトラックが密林の中の吊り橋を渡るところだろう。よくもまだこんなオンボロトラックが走っていると感心させられるのだが、それにも増して、そのフロントグリル周りがまるで怪物の顔なのである。

その怪物が唸りを上げ、ときに咆哮しながら奥地の道なき道を這い進んでいくシーンに引き込まれる。


クルマがこれほど怪物に見えたのは、スピルバーグの監督としての出世作といわれる「激突!」で執拗に主人公の車を追い詰める大型トレーラー以来だ。

音楽は、タンジェリン・ドリーム。ドイツ出身の当時プログレッシブ・ロックといわれたバンドの一つである。今聞けば、プログレッシブどころか妙な懐かしさを感じさせる電子音楽なのだが、それが画面のおどろおどろしさと相まって心に残る。

2019年1月3日

セルジオ&セルゲイ

京都シネマで上映中の「セルジオ&セルゲイ」は、2017年に製作されたユーモアとファンタジーに溢れたキューバ映画。脚本・監督は、キューバ人のエルネスト・セラーノだ。


主人公の一人セルジオは、ロシアの大学院でマルクス主義哲学を専攻して学位を得て、いまは母国の大学で教鞭を執っているエリート共産主義者。だが時は1991年。ベルリンの壁が崩れ、社会主義陣営の崩壊の波の中で深刻な経済危機に見舞われているキューバでの暮らしは困難を極めている。

そんな彼の趣味はアマチュア無線である。ニューヨークに住む無線仲間から、本国では報道されない政府にとっての不都合な情報を得ては、将来の行く末を案じている。番組冒頭では、モールス信号で通信をしていた! その後、NYの無線仲間から機器をプレゼントしてもらって、やっと声で通信ができるようになった。

もう一人の主人公であるセルゲイは、母国の宇宙ステーションに滞在中にソ連が崩壊したため、帰還が無期限で延長されてしまったソ連の宇宙飛行士。地球から何百キロと離れた宇宙でひとり、どうしようもなく日々の決まり切った活動を続ける彼は、ある種腹立ち紛れに無線で地球に語りかける。

そこでこのふたりが電波の上で出会って、交信をするというわけだ。その後、このふたりがそれぞれ置かれた悲惨な状況をどう生き抜いているかは映画を観てのことだが、どんな時も投げやりにならず、ユーモアを忘れない考え方はすてきだ。

かつてロシアに留学し、マルクス主義哲学で学位を取ったエリート大学教授が、社会主義の崩壊の波のなかで一気に傍流に押し流されていく様子。宇宙にいる間に母国のソ連が崩壊し、帰るに帰れなくなった宇宙飛行士。そのふたりが、実にローテクなアマチュア無線でつながるというアイデア。皮肉と諧謔が込められていて、どれも気に入った。

セルゲイにはモデルがいる。実際に帰還無期限延長を命じられたのロシアの宇宙飛行士である。ただ名前はセルゲイではない。映画では、典型的なソ連人(ロシア人)の名前としてセルゲイと呼ばれ、同様にセルジオは典型的なキューバ人の名前だ。

スピルバーグが監督し、トム・ハンクスが主演した「ターミナル」という映画があった。確かクラコウジアという架空の国だが、その国からアメリカにやって来た男の物語だった。故国が突然政変で消滅し、パスポートが無効になったために到着した空港(ニューヨークのJ・F・ケネディ空港)から外へ出られなくなった彼とそのターミナル内で働く従業員たちの交流を描いていた。

こちらも自分の意思に関係なく、政治の大きな流れの中で翻弄される個人の不幸と悲哀テーマにしながら、それでも国籍や民族にとらわれず個人と個人が意思を通じさせることで生まれる交流を温かく描いていた。


 モチーフは似ているが、どちらもその目の付け所がいい。

2019年1月2日

今年の年始は奈良で

年の暮れに思い立ったように新幹線に乗り込み西へ。京都で近鉄京都線に乗り換え、近鉄奈良駅まで。

近くのホテルで一泊し、元旦は初詣に桜井市にある三輪明神 大神神社(おおみわじんじゃ)へ参った。この神社は本殿がなく、うしろの三輪山そのものをご神体にいただく原初の神祀りの様を今に伝える、日本最古の神社といわれている。

真ん中に見えるのが大鳥居

派手さのない神社なので静かにお参りができるだろうと勝手に想像していたのだが、由緒ある神社だけあってなかなかの人出で賑わっていた。

お参りの後は、地元名物の三輪そうめんを昼食にいただいて帰ってきた。