彼女が書いた『「その日暮らし」の人類学』は、もともとは学術論文をベースして書かれたものであるが、一般的な書籍としてとても読みやすく再編集されている。
タンザニアで十年以上にわたって調査し、そこで出会ったマチンガと呼ばれる零細の露天商たちに混じって自ら露天商として生業を立てながら現地の実態を調べ上げたそのガッツは素晴らしい。
彼女はタンザニアで、日本にはもう無くなったいくつもの宝ものを見つけたようだ。その中の1つが、「仕事は仕事」という考え方。どんな仕事も等価と彼らは捉え、仕事に序列を作らないことに誇りを持っている。その場その場で、何でも仕事にしてしまう逞しさ。
彼女によれば、スペシャリストではなくジェネラリストを目指しているという。ある種、リスク分散のためだ。日本のように社会が安定しているわけではないので、どこでどうなるか分からない。不安定な社会のなかで、どんな事があっても働いて食っていけるようにということか。
そして、何でもこなせる人になっておくため、仕事はつねに副業を持っている。いい仕事があれば、すぐにそれをやろうとする。いろんな仕事を組み合わせて新しい仕事をつくり出していく。実に逞しいのだ。
日本でも局所的にではあるが、副業を持つという働き方が認められてきている感じがある。企業が社員に副業を持つことを表立って認めているところもある。副業を持つことで社員が新しいスキルを身につけたり、新しいアイデアを生み、そのことで本業に刺激を与えることを期待している。
日本の管理社会の典型である日本企業が、マチンガにやっと追いついた(?)とも考えられる。
タンザニアのマチンガたちは、とても風通しがいいと小川さんは言う。特定のメンバーシップのなかでのつながりだけでなく、その場でたまたま会った人、いまここにいる人、もう会わないかもしれない人とのちょっとしたやり取りを大切にする生き方。そうした、一見どうでもいいような人と、自然なかたちで助け、助けられて生きている。
話を聞くにつれ、なんだかとても彼らが羨ましくなってきたぞー。
番組中にかけた曲は、アルバート・ハモンドの「落ち葉のコンチェルト」。
番組中にかけた曲は、アルバート・ハモンドの「落ち葉のコンチェルト」。