映画『オールド・オーク』は、英国の名匠ケン・ローチが2023年に製作した作品。86歳になる彼のおそらく最後の作品。彼の作品はどれも市井の人々を深くとらえ、社会を低い位置から水平に眺めているのが特徴だ。
2023年の作品だが、日本では配給されないままだった。それが先週末から国内の映画館で公開されるようになった。まるで今のこのタイミングを待っていたかのようだ。
この作品の舞台は、2016年の英国。EUを離脱するかどうかで揺れていた頃の英国である。
イングランド北東部の、かつては炭鉱で栄えていた町。その後閉山とともに廃れ、人口も減少をつづけるその町がシリアからの難民を受け入れることになったことから起こる摩擦と対立を描いている。
「オールド・オーク」はその町に一軒だけ残ったパブ。決して繁盛しているわけではなく、細々と、しかし町の人たち(特に元炭鉱労働者の男たち)が息抜きと仲間との繋がりを求めて集う唯一の場所である。
そこを舞台に、男たちの口からかつての町の繁栄とその後の衰退、彼らが呼ぶ「よそ者」への嫌悪が伝わってくる。経済的に回復の光が見えないなかで、なぜ難民に自分たちの税金から医療や公共サービスが提供されねばならないのかといった英国人住民の不満と怒りが描かれる。
人は自分がうまくいかないと、その原因をどこか他の所に見つけようとするものだ。その町の衰退もそうだ。サッチャーリズムの流れの中での政府の方針転換と地方の切り捨て策によってそれまでの産業が断たれ、人々の働き場がなくなり、学校が消え、教会も閉じた。そして多くの人々、特に若者は町を去って行く。出て行くことができない人たちがあとに残る。
未来のない閉塞感と不安が人々をおおっている。人口が減少している、そうした家賃も安い地域は政府にとって格好の難民の送り先になる。
もとからいるその地の住民は、「よそ者(荷物)を押し付けられた」と感じて怒りを募らせていく。そして、その前からさびれ続けていた町であるにもかかわらず、難民らが自分たちの町の衰退の原因だと考えるようになる。
ケン・ローチはこの映画で、難民を優しく迎えましょうとか、仲良くしましょう、助けてあげましょう、と言っているのではない。もちろん彼らを排斥した方がいいと言っているわけでもない。問題を解決するための特効薬などないことを理解した上で、少しずつ理解し合って歩み寄るしかないとそっと語っている。
映画の中では、人々が食事を作り、一緒に食べるシーンが何度もでてくる。わかり合うためのもっとも簡単で効果的な方法がそれなんだというメッセージだろう。同じ釜のメシを食う、というのは国を問わず共通なのである。
もう一つ、この映画の制作者が語っている大切なこと。それは、敵は目の前にいる相手ではないということ。その後ろにいる、大きな力をもった連中こそが本来の敵であることを忘れないようにしなければと訴えている。