中国が、日本行きの団体旅行を解禁することを決め、その旨を在日中国大使館が外務省に対して文書で伝えた。
すでに中国は個人での日本への旅行は許可しているが、そのためには一定額以上の収入が必要になるなど、日本政府側のビザの発給条件がそれなりに厳しかった。しかし、団体旅行は申請条件がゆるいため、中国政府が日本への団体旅行を解禁すれば、かの国からの訪日観光客数が一気に増加するのは間違いない。
そうした動きを受けて、すでに百貨店や大手のドラッグ・ストア、ホテルなどの株価が上昇した。中国から大勢の観光客が日本に詰めかければ、そうした一部の観光、あるいは小売、運輸関係の業種は潤うことだろう。
だがその一方で、我々一般の国民から見れば、はっきり言っていろんなノイズがまた周りでいっきょに増してくるのかといささか心配になってくる。日本政府は、訪日外国人が増えることを経済的な面で歓迎しているのだろうが、それでいいのか。日本もそうした国になってしまったのかと嘆きたくなるのは僕だけだろうか。
この10年で所得の上昇にともない海外に旅行に出かける中国人が世界中で増加した。その恩恵にあやかり、外貨を稼ぎ、経済を少しでも押し上げようというのが、日本の政府が期待してるところだ。裏を返せば、それしか日本の経済を保つ方策が残っていないと言うことなんだろう。日本はいつの間にかギリシャのようになってしまった。
新型コロナの最中、京都市内の四条通を歩いていたときのことだが、まだ夜の9時前だと言うのに僕たちの前にも後ろにもほとんど人がいなかった。なんだか妙な寂しさのようなものを感じたほどだったが、一方で京都のその大通りを独り占めしてるような不思議な快感があった。もう2度とそんなことを感じる機会は無いのだろう。
|
京都四条通、2020年9月撮影 |
ところで、「インバウンド」と行政などが呼んでいる海外からの外国人旅行者が増加する一方で、日本から海外に行く人数は伸びていない。理由は、ビジネスの商談がリモートで行われるようになったからではない。数字の上ではそれもあるが、日本人の実質的な賃金の減少と海外での物価上昇、そして何と言っても円安のインパクトが大きい。
10年前、在外研究のためにNYに住んでいた時のアパートの家賃は2,850ドルだった。円ドルの為替レートは80円だったので月約23万円。その時現地で世話になった不動産屋の担当者に、今同じ部屋を借りるとしたらいくら位かメールで聞いてみたら、4,995ドルという返事が返ってきた。今のレートで計算すると月70万円以上である。つまり、この10年で円換算で3倍に上昇した。もちろん上がったのは家賃だけではない。すべてだ。
これはひとつの例だが、日本は海外からの観光客を呼び込むことはできても、自分たち(一般的な日本人)が海外へ行くことは、とても「贅沢」な時代になった。この事実は旅行者だけではなく、海外の大学への留学者数のさらなる減少も予想させる。それが中長期的にどういった影響をこの国に及ぼすかは、また改めて考える。